潜水記録1


3年ほど前ぐらいからでしょうか。私はスクーバダイビングをやってみたいと思っていました。その時のきっかけがなんであったかは忘れてしまいましたが、やってみたいという気持ちをより強く思ったときのことは、よーく覚えています。それはあるTV番組で「セノーテ」という場所の映像を見た時のことでした。


セノーテ (cenote) はユカタン半島の低平な石灰岩地帯に見られる陥没穴に地下水が溜まった天然の井戸、泉のこと。泉の下層には大規模な鍾乳洞が水没していることが知られている。水面下では決して形成されることのない鍾乳洞が見られるのは、次のように説明されている。氷期の海水準低下時に形成された長大な地下川型洞窟系が後氷期の海面上昇にともない、内陸部では地下水位が上昇することによって洞窟系全体が水没した。このような洞窟の天井の一部が崩落して陥没ドリーネが生じた結果、セノーテができた。

セノーテ - wikipedia


TVで見たセノーテはものすごく透明度が高くて、ずっと先の方まで見渡せたのが印象的でした。ところどころに太陽の光が差し込んでいるポイントがあって、その光を水の中から見ると、まるでカーテンのように揺らいで、アニメで天使が舞い降りてきたような幻想的な景色がものすごく心に残りました。


それから、スクーバダイビングをやりたいという想いは一層強くなったのですが、それでもなかなか始めるきっかけをつかめずにいました。愛知県にいたころは、休日となれば地元の友だちとよく遊んでいましたが、京都に来てからは独りで過ごすことが多くなりました。それもあって、休日は自分のペースで過ごすことも多くなってきて、やりたいこともどんどん実行していくような毎日を送っています。


そして、ずっとやろうと思っていたスクーバダイビングも始めることにしたのです。新しいことを始めるということは、もう何度もやってきました。そのときにいつも感じるのは、最初の一歩だけが最も力が必要で、後は流れるように進んでいくということです。スクーバダイビングのときも同じでした。


まずはダイビングのライセンスをとろうと思い、ダイビングスクールに行きました。最初のオープン・ウォーター・ダイバーは学科講習、プール講習、海洋講習の3つを受けて取得することが出来ます。学科講習もプール講習も初めての経験なのでとてもエキサイティングで、もっと上手くなりたいとやればやるほど楽しくなりました。


海洋講習では楽しい出会いがありました。彼は松本くんでした。スクーバダイビングはバディシステムというものがあり、必ず2人1組で潜るというルールがあるのですが、海洋講習で私は松本くんとバディを組むことになりました。


松本くんは、その日に初めて会った人でしたがとても気さくで、すぐに友達のように冗談を言ったり、お互いのボケにボケを重ねてみたり、インストラクターにも「お友達同士ですか」と言われるぐらいに仲良くなりました。海洋講習の現地までの移動中、インストラクターの人は「ワンピースのチョッパーというキャラクターが大好き」という話になり、私と松本くんはどのキャラクターが好きかという話をしたり、消臭力のCMの歌を大声で歌ったりしながら、とても楽しい時間を過ごしました。


(いろいろと苦情が入っているという背景もあり)講習ではお互いの連絡先は聞かないようにと言われていたので、私も松本くんも名前ぐらいしか知らずに、それで終わりました。


私はライセンスをとった後も、もっともっと上手くなりたいと思ったので、もう一つ上のアドバンス・オープン・ウォーター・ダイバーというライセンスを取ることにしました。そして、その講習の当日、そこには松本くんもいました。偶然にも、インストラクターも前と同じ方で久しぶりの(と言っても1週間ぶりの)再会をしました。


ダイビング機材やバッグはみんな似たようなものを持っていたりしていることが多いです。ダイビングスクールやお店が同じである、私や松本くんはなおさらです。そのために機材にはマジックで印を書いておいたり、バッグにキーホルダーなどを付けて見分けやすいようにする必要があります。


その日、私はTSUTAYAのガチャガチャで手に入れたキーホルダーをつけて行きました。松本くんは何もつけていない様子だったので、聞いてみました。すると松本くんはカバンの中をゴソゴソしだして何かを取り出しました。


それは、前回の移動中に話していた松本くんの好きなワンピースのキャラクターバッヂでした。私とインストラクターが「いいですね」と話していると松本くんはまたカバンをゴソゴソし始めました。そして取り出したのは、私とインストラクターが気に入っていると言っていたキャラクターのバッヂでした。


松本くんはバッヂを私とインストラクターに差し上げますと言って渡してくれました。思ってもいなかった突然のプレゼントでした。松本くんは本当に人想いで透き通った心を持っている人だなぁと感じました。そう感じたのは初めてのことではありませんでした。


前の講習のときも、他の生徒の荷物を持ってあげていたり、ちょっとしたことでも声をかけてあげていたりと、松本くんの人柄を感じることが何度もありました。松本くんは帰国子女だそうで、なぜか変に納得した気持ちになりました。日本人は自分の気持ちを伝えるのが苦手なことが多いと思っていたからだと思います。


アドバンスの海洋講習でも、私と松本くんは息ぴったりのバディであったように思います。ほんの2日間ぐらいを過ごした人ですが、いつかまた、それも近いうちに松本くんと会うのではないかと思います。それまでには松本くんの好きなキャラクターのキーホルダーを探して買っておこうと考えているのです。